朽ちた刀の鍛え直し

以前、古い堀の調査をしている方から、滋賀県内のとある地域で、堀の石垣の合間に忍ばせる様に置かれた火縄銃を発見した事があると伺いました。 何か惹かれるように触れたそれが銃身で、ほぼ筒だけの状態になっていたという事ですが、土を払ってみて火縄銃だと確信したそうです。

日本刀の打ち直し_01

この刀も、ある方が60年以上前に、何か惹かれるように目についた場所を「おや?」と思って土を払うと、誰かが置き忘れたかのように出てきたものだと言います。ご自宅付近の土地には戦国時代の山城があり、落城とともに廃城となっていましたが、その当時の物かもしれません。

発見当時、警察に行って大変な思いをし、「いつか研いで綺麗にしたろ」と思いつつも時が経ち、こうして私の元へ。
錆びた刀を研ぐと素晴らしい金額が発生してしまいますが、すでに表面はいくつもえぐれ、深部も朽ちている可能性があるので、研ぎ師の引き受け手も居ません。ご家族からも手放すように催促され、「好きに使って」との事で、私に託されました。

鈨(ハバキ)とセットで出土し、どうも鍔(ツバ)もついていた痕跡はあったものの、それは風化に耐えられず失われていました。
出土した時点で、錆に包まれ、既に刀としての命運は尽きていましたが、古の名工に教えを乞うために、敢えて打ち直し、料理包丁的な物に仕立て直してみました。

日本刀の打ち直し_02

様相から鎌倉時代中頃、かさねも厚く、さおためぶりものです。
構造は三枚合せ、背にかけて鋼が厚く、ナカゴに至るまでしっかりした強度を保っていました。

正直、「錆が深部に入っていて無理だろう」という先入観がありましたが、作業を終えて感じたのは、「もっと打ち直せたな」という驚きでした。
経験上、錆びて朽ちた古鉄は、火の中に入れて打ち直すと、錆が食い込んだ部分から崩壊します。そのため原形をとどめる事がかなわず、結局は、まとめ上げ鍛え直します。 この刀に関しては、そういう事が無く、若干錆びの食い込みが激しい部分に荒れた肌が残ったものの、刃は健全で、焼き入れにも耐えてくれました。

火の中で生まれ変わった3つの刃物は、各地で数百年ぶりに新たな主の元、武器ではなく暮らしの道具として使用されています。

姿も本当に美しく、鍛えも緻密で、鋼は冴え切れ味も研ぎ味も良く、当時の名工の息吹を感じ取る事が出来ました。
大変良い勉強になりました。

※銃刀法上、発見した刀剣などは、最寄りの警察署の生活安全課などに届け出をし、各都道府県の教育委員会の実施する審査会にて刀剣としての登録が必要になります。研ぎ直し等は、届け出無しに一切を行うことはできません。
また、発見した未登録品の刀剣類(火縄銃なども含む)の廃棄処分は、最寄りの警察署にてご相談ください。

日本刀の打ち直し_04
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