鍛冶場

刃物を作る鍛冶場。
その設備や鍛冶道具を少しご紹介します。

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ベルトハンマーについて

私が使っているベルトハンマーは、半ば騙されて入手した様なスクラップでした。
ですが、これを使えるようにしていく過程で、和鉄由来の古鉄を扱えるようになっていきました。

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機械と手と、何が違うのか?
これはよく問われるところですが、基本的にベルトハンマーやスプリングハンマーで出来る事は、手作業と大差はありませんし、当然ながら、作業によっては自分の手を使って叩く必要性はあります。

この機械の働きは、昔だと大人2~3人で行う作業に相当しますが、ベルトハンマーがあれば、その分の人件費は浮きますし、今現在、敢えて人力に頼るメリットはありません。
人力ですべてをこなす事は、ノスタルジーを求めるだけで、商品価格も10倍程度に跳ね上がります。
14,000円の包丁と140,000円の包丁。中身は同じだが、製作に用いた動力の違いという事になり、やはりそれでは説得力に欠けるので、素材を和鉄玉鋼に、燃料を松炭に、刀剣と同等の研ぎを入れて、黒檀の柄を挿げて、桐箱に入れて1丁400,000円。しかし、切れ味・機能性の面では同じです。
それでは、工房を維持するのは困難かもしれませんし、ただひたすら鎚をふるうだけの仕事は本当に大変ですから、昔はその部門だけでも専門職と言っていいでしょう。

昔は、向鎚を打つ相方はその専門職で、2~3人のチームを率い、リーダーの役目は重要です。鎚をふるうリズム、強弱、親方の意図を読み取り、チームを指揮する能力が求められます。
今は、自分で機械を操り、強弱、リズムを整えるのも自分です。漫然とペダルを踏み、クラッチを繋いで動力を伝達して、ハンマーを上下させればいいと言うわけでは無く、その機械を通じ、鉄の固さ、伸びる感じ、脆さ、崩れる感じをつかみ取る感性が求められてきます。機械には心が無いですから、自分がしっかり掴み取らなくてはいけないのです。叩けば勝手に伸びて形になるどころか、力に負けて弾き飛ばされて大やけどすら負います。

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刃物を作る鍛造において、金鎚は指先に相当します。ベルトハンマーの鎚も自分の掌・指先と同様で、ろくろを回して陶器を形作るように、金床の上で、鉄が熱い内に金鎚で叩きこなさなければなりません。
鉄質の違いで鉄の伸び易さ、脆さが変わってきます。特に、和鉄系の古鉄は伸びないですし、裂けて脆く崩れていきます。現代の新鉄に比べて、鍛造時の扱いが非常に難しいです。
相方が人力でも、その辺の加減が下手ならば、地金の鍛錬一つ満足に出来ず、イライラしながら喧嘩になって仕事どころではなくなるでしょう。機械でもその辺を感じ取れるようになれば、人力以上の働きをしてくれるようにもなります。

ただ、その為に私はとても苦労し、多くの時間を費やしてしまいました。
このベルトハンマーと私とのかかわりは、「使えない」所から始まりました。

ベルトハンマーの入手経緯と設置

鍛冶の仕事をするうえで、一番大がかりな機材の一つがベルトハンマーになりますが、仮にもし、新たに修行無しにこの職に就こうと思うなら、エアーハンマーでも、ベルトハンマーでも新品を入手することをお勧めします。特に、エアーハンマーの場合は、絶対的に修理修繕の為にも国内でメンテナンスを受ける事が可能なメーカー品でなければなりません。
ベルトハンマーでもスプリングハンマーでも、中古品は探せば出てきますが、運送手段、設置、そして調整とハードルは非常に高く、もし、この手の機材を初めて取り扱うとして、その調子をどうやって見ていくのか?余程程度が良いものか、しっかりとアドバイスを貰える環境でなければ、その先行きはかなり大変なものになっていきます。

私は修業を経てこの職に就いていますが、正直、ベルトハンマーについては深く考えてはいませんでした。調整も出来ましたが、それは状態の良いものにおいての経験でした。
「中古で十分」あてはありませんでしたが、場所を確保してから半年ぐらいで、入手し、設置しました。

設置にあたっては一人で実施していますが、数百kgある機材なので、基礎の構築から重労働を強いられます。
新品ですと、少なくとも工房までの運送搬入は業者が行ってくれますが、中古品であれば設置場所への取り付けは自分自身で行う必要があるでしょう。

あらかじめ、基礎部分の工事を行っておきます。基礎部でベルトハンマーの櫓(やぐら)を固定し、さらに金床台座を固定しなくてはなりません。1m四方の深さ1mのコンクリの塊にアンカーボルトを設置し、枕木を取り付け、金床台座の下地を作り、これだけで一月は必要になってきます。
ハンマー自体は、北陸の刃物鍛冶の方から譲っていただきました。方々で探しているうちにお声をかけていただいたのですが、「20万程」という事でしたので「一度見てから」と申し出るも断られ、何時までも手作業でとは行かないですから、思い切って引き取りに行きました。
流石に、現場では「タンタンタンタンタンタン・・・」快調に動いていましたが、どう見ても「寄せ集め」です。しかし、2tトラックを借りてわざわざ伺っているので、手ぶらで帰るわけにもいかず、フォークリフトで荷台に載せてもらって、ホントに着いて直ぐ20分ぐらいで帰路につきましたね。
金床台座だけでも300kg程度、ハンマーも200kgはあるでしょう。バラして荷台から降ろして・・・・
工房へ戻ってきてから翌朝までかかりました。

手に入れたものは、「使い古された予備パーツをつなぎ合わせた寄せ集め」と知りつつも、この頃は体力も無限かの様に、夢中になって体を動かしていました。

ベルトハンマーの構造

ベルトハンマーの構造は、例えるなら「原付バイクの1気筒エンジン」と言うところです。動力の力の向かう方向は逆ですが、ピストンはハンマーで、シリンダーはハンマーのガイド、シリンダーヘッドは金床。エンジンにないのは、ベルトハンマーのベルトや、スプリングハンマーの板バネと言った衝撃緩衝機能です。
ハンマーはコンロッドに接続し、クランク、クランクシャフト、クラッチ(モーター)・・・クランクシャフトにはブレーキが取り付けられています。

バイクのエンジンは、シリンダー内部のガソリン燃焼による膨張圧力を動力に変換していますが、ベルトハンマーでは、モーターの回転をVベルトとクラッチを用いてクランクシャフトに接続させ、クランクにより回転を上下運動へ変換させています。

エンジンと最大に違うのは、エンジンでは、やはりピストンがシリンダーヘッドに衝突してしまうと、コンロッドは曲がるし、スムーズな運動エネルギーにはなってくれません。
ただし、ベルトハンマーでも金床との衝突で反発力反動はあり、これはハンマーやコンロッド、ベルトやスプリングを利用した緩衝機構の重量分の力の反動が、それなりに逆流していきますので、ベルトハンマーのクランクシャフトとクラッチ、及びその接続機構には、ハンマーが金床と衝突するたびに多大な負荷が押し寄せてきます。
その負荷の蓄積は、必ずベルトハンマーの仕組みを狂わせていきますので、使用頻度に応じた調整が求められてくるのです。

はじめから調子が取れていない機械ですと、抜本的調整が必要になり、微調整程度の知識ではどうにもなりません。そもそも、調子が取れるのかも定かではありません。
また、私が入手したベルトハンマーは、3+1(フレーム構造:クランクシャフトとクラッチ:コンロッド~ハンマー、その他パーツ群)と、3台の異なるベルトハンマーのパーツを寄せ集めており、部品設計上の「強度計算」が狂っていて、必然的に調子を出しても維持されず、使えば壊れるを繰り返していくことになりました。
唯一の救いは、基礎設計は自分自身で行い、古い文献に見られるように金床の地下構造は自分で工夫していた事でしょうか。
金床が置かれる地面、その地下構造も衝撃を吸収し、かつ衝撃に対して安定していなくてはなりませんが、これがあやふやだったり、鉄骨やコンクリでがっちり固めていると、衝撃はハンマーへ跳ね返り、新品であろうとその負荷は大きなダメージになって破壊へとつながっていきます。
昔の人だと、金槌を振るう手や、嘴(はし)を掴む手、手首にそのダメージが蓄積されるので、動かないように固定しながらも、余計な反動が生じない工夫もされていました。

使えば壊れ、直ぐに調子が狂うベルトハンマーと向き合ううちに集中力の維持が困難な状態となり、精神的に追い込まれていくことになりました。 場所が広ければ、またもう一台新品をと簡単に切り替える事が出来たでしょうけど、それは難しく、予算的にも無理でしたので、「普通には使えないベルトハンマー」を工夫して使っていくほかありませんでした。

ベルトハンマーの操作と調整

ベルトハンマーの操作は、右足のペダルを踏み込むことでクラッチを接続し、モーターの回転運動を、Vベルトを介してクラッチを回転させ、これをクランクシャフトに接続することで、クランクを介してハンマーの上下運動へと変換し、その運動エネルギーを鍛冶作業に利用します。

基本的にハンマーの上下運動を加減する方法は、ペダルの踏み込む力加減のみとなります。
(ハンマーの高さ調整を、コンロッド部で長さを調整し、上下運動量はクランク側でも微調整が効きます。さらに、ベルトのテンションの掛け方などがあり・・・これは使用前に調整し、頻繁に締めないし緩めはしない。)
ペダルの踏み込み加減でクラッチへの接続圧力が変化しますので、強く踏めば圧力が高まり、ダイレクトに回転エネルギーがハンマーに伝わって「ダダダダダダダダダダ」と激しい打撃が期待できます。しかし、こんな雑な操作はハンマーを傷め、壊すだけです。
「タンタンタンタンタンタン」と小気味よくリズムが作れ、早くてもアップテンポの曲程度のリズムぐらいが維持できればいいです。そして、そのテンポが任意に2ビート、8ビートと思った瞬間に変化させる事が出来れば最高です。
これの調子を維持するためには、部品に基準を定めて記録し、定期的に調整して狂いを戻さなければいけません。

クラッチが食いつき過ぎれば、「ダダダダダダダダ」とは行かないまでも、ほんの微妙な力加減の操作が出来ず、要らないところで強めの一撃を与えたり、逆にクラッチが食いつかないと、火から出して、肝心かなめの最初の一撃のタイミングを逃してしまう。
私が手に入れたベルトハンマーは、様々な寄せ集めのため、この辺の調整具合は全くと言っていいほど出来ていなかったし、設計強度がところどころ弱いので、壊れるたびに補強し、補強すると別が壊れるを繰り返していきました。
特に酷かったのはクラッチを接続させる部品回りですね。強度がまるで合っていないので、使用するたびに「徐々に歪む」為、気が付かないうちに調子が狂い、気が付くともう出鱈目になっている。
クラッチの接触面を定期的に研磨したり、歪む部品を強化したり、壊れる部品はあらかじめ予備を作りおいておいたり、そして、壊れないよう、歪まないように負荷を逃がす機構を組付けたり。

なかなか難しいベルトハンマーを入手したこともあって、量を作るより、古い鉄を鍛え、少数を作ることに仕事の方向性が定まっていきました。強く踏み込めばすぐに壊れるので、強く打ち延ばし、叩くことを嫌う素材を特に優先して使うようになりました。料理屋さんなら、料理に合わせた調理器具・包丁を手に入れるものですが、手に入れた包丁に合わせて料理を変えた感じでしょうか。
また、長時間リズムを維持してくれないので、数も作れず、使っては調整を繰り返す、なかなか根気が求められる作業でした。これがかなり改善して手足のようになったのは、パーツ自体を自分で作り変えてきた結果ですが、本当につい最近の事です。