斧(ヨキ)の打ち直し

ヨキは小型の斧(おの)または小型の鉞(まさかり)。
用途・地方色により、形も大きさも呼び名も変わってきます。
古いヨキを入手したので、打ち直す事にしました。
もっとも材料取り用で入手しましたが、特に古いので、しばらく自前で使って古鉄と玉鋼の具合を確認してみたいと思います。

斧(よき)の打ち直し_01

このヨキは近江・彦根近隣産です。この周辺から長浜(小谷城)・関ヶ原方面にかけて、中世までの鉄の主な産地の一つになり、幾多の名工により刀・槍・火縄銃と数多く生み出されてきました。特に長浜は槍の産地として有名です。
江戸時代になると、製材用の鋸(のこぎり)の生産などが盛んだったとみられます。鋼材取扱事業者として現在まで残っている企業もあります。

材質は古い時代の和鉄をベースに、玉鋼を割り込み、皮鉄を巻いて柄を挿げる穴を作ってあります。
大体、江戸時代末期から、明治時代全般と言ったところでしょうか。
消耗具合からあまり使用されていない事が分かります。というのも、鋼が「脱炭割れ」という状態を起こしていたからで(脱炭は、鋼中の炭素が抜け、燃焼してガスになり、そのエネルギーで周囲の鉄を酸化させてしまう)、刃先は細かく欠け、その状態で使用され、幾度となく刃こぼれが修正されては刃が欠けてを数度繰り返しています。そのために刃先が鈍角になっていて、薪割りには使いにくい感じです。ただ、当初は脱炭割れには気が付きませんでした。

柄が虫食われでボロボロなので完全交換で、片手薪割り用に変更します。

斧(よき)の打ち直し_02

刃が細いので、それを少しばかり広げるつもりで、刃先を軽く薄くなるように叩きます。鍛造する前に、一回600度まで加熱してゆっくり冷まします。こうする事で、焼き入れた状態が解除されます。

斧(よき)の打ち直し_03

打ち出したら、650度付近まで加熱し直し、徐冷、焼きなまします。
錆びも落とせればいいですが、そのうちに材料に戻す予定なので、今回はこのままにしておきます。

打ち出してから、微妙な歪み・偏りを叩いて直し、刃先の状態を確認するためにも、摺りまわし、整形します。この時に鋼のトラブルを目視で確認しました。幸い、脱炭は程度が軽かったので、脱炭が起きている箇所を取り除き、焼き入れ直します。

あとは軽く刃先を研ぎ出し、柄を挿げるだけです。

斧(よき)の打ち直し_04

柄には、明治頃の京都・大原あたりで使われていた鋤(すき)の柄を調整して挿げ替えます。
まだまだ道具として使えるくらい確りしています。

斧(よき)の打ち直し_05
斧(よき)の打ち直し_06

日本の林業は、昭和40年ごろを境に、一気に機材が刷新されていきます。昭和60年になると林業は採算性が厳しくなり、様々な道具が急激に使われなくなってしまいました。
ただ、昔の物は「使えるものは使い倒す」のが鉄則ですので、ヨキなどは切れ味の良いものは、徹底して酷使されます。研ぎ直しだけでは刃先が厚すぎるものが多く、打ち直して、残っている鋼を維持しながら薄くする方が長持ちします。

古いものは、打ち直してみると、現在の物に比べて部分部分で素材を使い分けて作られていて、物が持つ説得力が違います。
外国製になるとステンレスが多いですが、研ぎ難いですし、刃こぼれしたら買い替えた方が賢明かもしれません。程度によりますが、ステンレスの鉈系の研ぎ直しは厳しいです。
古いヨキは錆びますが、地金がいいので研ぎ易く、そして、この通り再生も可能です。